名古屋高等裁判所 昭和44年(ラ)123号 決定 1970年2月04日
抗告人
佐藤松男
相手方
金原朝美
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告人は、「原決定を取り消す。」との裁判を求め、その理由は別紙のとおりである。
ところで、競売法三二条二項によつて準用される民訴法六八七条によつて発せられる不動産引渡命令は、競売手続終了の方法として競売裁判所が競落人のため簡易迅速な手続により競落不動産の占有を取得させる目的で発せられるものであるから、不動産引渡命令の相手方となるものは、債務者およびその一般承継人のほか、競売開始決定により差押の効力発生後(すなわち任意競売申立の記入登記後)に債務者から該不動産の占有を特定承継したものおよび不法占拠者であることが明白であるものに限られるものと解するを相当とする。ところが本件記録に徴すれば、相手方は本件抵当権実行による差押の効力発生前に債務者から本件土地建物につき賃借権を取得し、その旨の登記を経由して右不動産を占有しているものであることが明らかであるから、右にいう不動産引渡命令の相手方の範囲に属しない。もつとも、相手方の有する賃借権は民法六〇二条所定の期間をこえる長期賃貸借で、その登記が抵当権設定登記後になされたものであることが認められるから、同条所定の期間内においても抵当権者および競落人に対抗できないことは、抗告人引用の最高裁判例の示すとおりである。そこで、本件のように抵当権設定登記後に登記された長期賃貸借は、競売の結果民訴法七〇〇条一項二号に従い抹消登記の対象となり、かかる賃借権に基づいて占有する第三者は実体法上の引渡義務を負担するものであるから、当然このものに対しても不動産引渡命令を発し得るとする見解がないではないが、立法論としては格別現行法の解釈上、当裁判所はにわかに右見解に左袒できない。従つて抗告人が相手方より競落不動産の引渡を求めるためには、所有権に基づき別に引渡の訴を提起するほかないものと解すべきである。
よつて、本件抗告は理由がなく、その他記録に徴するも原決定に違法の点あるをみないから、これを棄却し、抗告費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。(伊藤淳吉 井口源一郎 土田勇)